
ラ・ロサ・ナウティカのメインホール
FOOD
世界の美味しさが集約された
ペルー料理の真髄を楽しむ
シリアスな話ですがペルーは中世のスペイン王国が先住民を完全に征服した国であり、近世は移民の国と様々な顔を持つところです。たぶん人類史で最も最悪な征服が行われた気配は、今でも教会などに残っているように感じました。
とはいえ、それ以外は世代を超えて様々な魅力が入り交じる国になっています。特に料理は、国が推奨する産業にもなっており、素晴らしい料理が日々生まれている場所です。
リマを代表する
ペルーキュイジーヌの名店
ペルーの最も華やかな商業地区、ミラフローレスの海岸のランドマークであり、専用の桟橋の先の海上に建てられているのが1983年開業の老舗レストラン、ラ・ロサ・ノウティカです。無数の杭の上に立ち、波によって微妙に揺れを感じるレストランは、海を感じながら食事をするというシチュエーションとしては最高でしょう。
往々にして雰囲気のいいレストランの料理が素晴らしいとは限らないのですが、ラ・ロサ・ノウティカに関しては、裏切られることは全くありませんでした。セビッチェなど定番料理には絶妙にハーブが加えられたオリジナル感があり、お皿選びから洗練されたシーフードや肉類の盛り合わせは食べる前から楽しめます。そして少し甘さが抑えられたデザートまで全く隙がなく去りがたい終りを迎えます。
どんな美辞麗句を並べるよりもgoogleMapのコメントが裏付けになるでしょう。コメント数が11000以上で、評価が4.5というのは信頼が証明でしょう。人気だけのレストランとは格が違いました。

海上に張り出したレストランの風景

シンプルなチキンソテーも絶妙な味付け
骨太な伝統ペルー料理 El Bolivariano
日本料理に例えるなら、料亭という位置ではないけど、寿司も丼ものも、蕎麦もありつつ、どれも外さず美味い地元の定食屋が、やや高級になった。という感じのペルー料理版がエル・ボリバリアーノでした。
毎日朝7時半から夜まで通しで営業している、街の台所といえるレストランです。インテリアもペルーの近代で使われた農機具などが飾られ、また近代以前の写真と絵付けされた伝統柄の食器が壁に飾られていました。
定番中の定番の牛肉ご飯、ロモサルタードを頼みましたが、飾りっ気のないのに美しい佇まいがお皿の上あり、濃厚なソースがご飯やポテトに染み込み、食が進みました。
旅行者の多くが滞在するミラフローレスからだと車で20分ほどかかるところにありますが、雰囲気も価格もローカルになるので、料理の美味しさ以外にも楽しい場所でした。
古い邸宅がペルーキュイジーヌに
こちらは旧店舗の写真ですが、ペルーキュイジーヌの美しさにしびれた一品に出会ったレストランでした。代表的な料理であるセビッチェをアレンジした一品です。いわゆるペルーの漬け刺身的な一品ですが、花束のような美しさに、食べるのを躊躇したほどでした。また味もいわゆるセビッチェというより濃厚でした。それはウニが使われていたり、揚げた生姜のスライスが絶妙なバーブになっていたり、別次元の料理でした。シェフのCésar Lozanoの想像力を楽しめました。
以前のレストランは、古い邸宅の広い庭がメインダイニングでした。雨の少ないペルーですから、オープンテラスで屋根は細い木を並べた日除けを意識したものでした。開放感が気持ちいいテラスは新店舗でも変わっていないようです。
邸宅内のレストランは、冬と雨の日くらいしか使われません。ペルーっ子は外で食べるのが大好きですから。

広い庭の中央に置かれたバー

古い邸宅の一室。個室になっていた。

セビッチェの概念を超える美しいプレゼンテーション
アシエンダの雰囲気を楽しむ:La Carreta
アシエンダは、近世の牧場の邸宅の総称です。広大な牧場に建つ牧場主の邸宅のことです。そんなリマの大牧場主をイメージしたレストランがLa Carretaです。
リマ中心部で高層階ビル一つ作れそうな広い面積を使った店舗は、リベラ・ナバレテ通りに面して長い壁に囲まれ、中央には広い鉄格子の門があります。中の木々が生い茂ったファサードを通り過ぎるとワイン樽が山積みになったレストランがあり、その奥には巨大な鏡があるバーがあります。いずれも、豊かな牧場主のアシエンダが想起できる見事なものでした。
インテリアも素晴らしいですが、やはりレスランは料理です。ペルーのシェフが若いことは有名です。国策としてペルー料理を輸出品目に掲げて、クリエイティブなシェフの支援しているので、海外で修行した若いシェフが有名店で起用されるのは日常の姿です。ペルーの伝統料理を軸にしたLa Carretaの特徴はステーキなどですが、既存のスタイルとは一線を画し、シーフードがたっぷり乗ったソースでステーキを食べるなど期待を裏切られることはほとんどなく、見た目、味ともに驚かされました。

ワイン樽が天井までならぶメインホール

シーフードソースが乗ったポークステーキ
最高レベルの多国籍料理を望むなら:
Rafael
まずある政治家一家の話をしましょう。1992年、フジモリ大統領が就任直後に、外交官250人が解雇され、国会は解散され、当時ペルー国会議長だったオスターリング氏は収監されます。その息子、ラファエルは法律を学んでいましたが、外交官の未来に絶望して、第二の選択である料理人を選びます。ロンドンとパリに留学し、一流レストランで働き、ペルーに帰国したときは、ラ・グロリアに招聘されます。数年を経てラ・グロリアでペルー最高のレストランという称号を得たあと、ラファエルを立ち上げた、というのが店の歴史です。
料理も素晴らしかったですが、衝撃的だったのは前菜の前でした。席に用意されていた、平皿にたっぷりのハーブが浮かんだオリーブオイルが貼った綺麗な小皿がありました。これ、何?と聞くとパンにつけて食べてくださいという返事。試してみると、経験したことのない美味しさです。ワインとパンだけでも十分に贅沢に食事ができると思った瞬間です。
写真のカルパッチョも、寿司の要素も含まれた想像豊かな味付けでした。リマに行ったらば絶対に行くべきレストランと言って間違いないところでした。
もうリマは食の都としてフランスと同じくらいの存在になっています。
それでいて伝統料理に固執しない自由な料理、というのであれば世界の最先端と言って間違いないでしょう。どこかで食べたような気がしながら、どこにもない料理だったりする、テーブルの上に様々な記憶が行き来するということでは、座りながら心は旅行しているような思いがありました。
観光もいいですが、朝昼晩、食の旅をし続けられるというのもリマの魅力です。