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PLACES

11世紀の教会を
再興したヘリテイジホテル

 人の出入りを阻むような絶壁の上にある天空の村ラヴェッロで、中世の面影を色濃く残す宿の一つが、ホテル・パルジファルです。1288年に建てられたベネディクト会修道院を修復し、ワーグナーの最後の作品の名前を冠してよみがえった絶景の庭をもつホテルです。


 

鳥の視点の絶景を独り占めするテラス

 フォンターナ・モレスカ広場に面した、つるが覆う壁に囲まれたホテルの玄関を抜けると、ティレニア海へ向けて開かれた中世の気配を残す庭園が広がります。
 その色彩豊かに咲く花も美しいけれど、その先に見えるサレルノまで続くアマルフィ海岸の山並みと地平線が現実離れした美しさを見せます。
 この風景は刻々と色を変えながら変化し、終日ホテルで過ごしても飽きることはないでしょう。夜はバルコニーで絶景のディナーが楽しめます。

夜明け前の中庭、空の色がどんどん変化します

天空のレストラン。ファーストクラスも比にならない贅沢

キャリアの長いシェフが作り上げる美しいラビオリ。

 

「ただ空の上を楽しむ」という贅沢

 ラヴェッロの中心地から600mほど北にあるHotel Parsifalは、観光客も少ないエリアに立地します。早朝、庭にでると逆光気味に差し込む陽射しの強さは、心地よい朝を演出してくれます。最良なのは、ほとんど風の音しか聞こえないことでしょう。海抜350mを超える高さでは、波の音も海岸の喧騒も聞こえません。この高さになると空気も海の湿度がなくなるのか乾いた感じで快適です。
 平凡な風景を眺めるというのはかなり退屈なことですが、斎場の風景を眺めるというのは簡単には飽きません。
 振り返れば11世紀の教会の風情をもつ建物は中世を思わせ、そこにある花が咲き誇る庭の先にある輝く水平線という設定は、あまりに優雅です。日差しが高くなると、それまでシルエットのようだった山肌が緑になり、眼下のミノーリ村のレンガ色で統一された屋根がはっきり見えるようになります。雲が近いためか、太陽が切れたり、大事の色を次々に変えていきます。

中庭を海に向かって左の建物の、可愛らしい飾り付け
昼の風景もまた空を飛んでいるような風景でした

 

ホテルというよりは友人の別荘

 Hotel Parsifal Ravelloの最大の魅力はオーナーのアントニオでしょう。
彼はヴネツィアの伝説の一部ともいえるホテル・ダニエリのマネージャーを10年務めた後に、故郷のホテルを継いでいます。5スターホテルと対象的なカジュアルな対応は、友人宅のようにリラックスできる雰囲気を醸しだしていました。
 高級ホテルにありがちな、下僕のようなうやうやしいサービスはありませんが、荷物はオーナー自らが運んでくれ、ラベッロを説明してくれます。
 世界の一流を知り尽くしたホテルマンがたどり着いた、至上のフレンドリーさ、もてなしを楽しむこと。
 たぶん私にとって、アマルフィに行く事はパルジファルに行くことになってしまったように思います。

教会の雰囲気を引き継いた小ぶりなレセプション
ヴァーベナとオリーブの香りが心地よいアメニティ
玄関を入ってすぐに、海が見える中庭。この風景に一目惚れ

 

800年前の教会の佇まいを味わいましょう

 1280年ころとなると、まだ十字軍がエルサレムに向かっていった時期でしたし、マルコポーロがアジアに旅立ったところで、中国はモンゴルの領土だった時代です。日本では蒙古襲来、文永の役、世界的に戦乱の時代です。まあ今でも人間は変わっていませんね。
 そんな地上の争いを離れて、純粋に祈りの世界に生きていた僧侶の心持ちを想像しながら、天空の風に吹かれるのも人生の最上の贅沢だと思いました。

教会のコリドー跡の上に作られたレストラン
客室棟へ向かうアーチ

 

ゆったりと、天上の地で食べる朝食

 出来たら食事はテラスで食べましょう。
 何を食べるか、も贅沢の一つですが「どこで食べるか」も大事なことです。ホテル・パルジファルは豪華なホテルとはいい難いですが、贅沢なホテルであったのは間違いありません。
 豊富な果物。フルーツジュース、明らかに違いがわかる生ハムやチーズ。それを天空のテラスで食べるのは究極的な贅沢でした。
朝の涼しい風と強い温かい日差しは体にとって素晴らしいごちそうでした。

山盛りの果物
薫り高いフレッシュジュース

天空のレストランはディナーも朝食もここちよい

 ホテル・パルジファルに泊まる一番の理由は絶景ですが、実はオーナーのアントニオの存在があります。
 ベネツィアで世界の富裕層の定宿であり、最高のホテルの一つと呼ばれるダニエリで10年マネージャーをしていたキャリアから来るのでしょう。さり気なくかつ細部まで丁寧な気遣いが投宿から続く滞在は、まるで気の利いた友人宅に泊まるような安心感があります。
 その上、評判のレストランはミシュランこそ取っていませんが、様々なレストランガイドで肉薄する採点を得ている名店です。
 ラヴェッロでも北側に位置し、観光の中心地から少し離れていることもあり、静かな天空の滞在を味わう事が出来ました。